自動車産業と気候変動政策関与:グローバル分析

自動車メーカーによる政策関与が世界的なEVトランジションを危険にさらしている

2024年5月

InfluenceMapの新たな分析によると、世界最大級の自動車メーカーらによる1.5℃目標と整合していない政策関与は、世界中の気候変動目標を危険にさらし、EV車(以下、電気自動車)への転換を脅かすものであることがわかりました。本報告書では、世界の主要七地域(EU、インド、英国、オーストラリア、韓国、日本と米国)における大手自動車メーカー15社の気候変動政策への関与戦略を分析しています。また、米国やオーストラリア等、気候変動に関する主要な法律が近年可決された国々においてさえも、自動車産業界からの圧力により、政策の野心が失われていたことを示しています。

  • 分析対象である自動車メーカー全15社は、テスラを除き、EV車を推進する少なくとも一つの政策に対して活発的に反対しています。そのうち10社は特に否定的かつ活動的に関与しており、InfluenceMap独自の方法論によると、DまたはD+の評価となりました。トヨタ自動車(以下、トヨタ)はこの分析で最も低いスコアを獲得しており、英国、豪州、米国を含む複数の地域でバッテリー式EV車(以下、BEV)を促進する気候変動規制へ反対していました。分析対象となった全自動車メーカーの中で、1.5℃目標に沿った前向きな気候変動政策関与を行っているのはテスラ(スコアB)のみです。
  • この分析では、自動車メーカーが業界団体を通して、いかに世界規模で野心的な気候変動規制を積極的に反発してきたかを明らかにしています。例えば、2024年3月に発表されたオーストラリアの新しい自動車燃費基準案(New Vehicle Efficiency Standards)は、自動車産業連邦協議会(Federal Chamber of Automotive Industries)の活発な政策関与により、大幅に緩和されました。最終的な政策は、当初提案されていた2029年までに60%の削減ではなく、50%削減になると見込まれています1。米国では、米国自動車イノベーション協会(Alliance for Automotive Innovation)が、温室効果ガス排出基準案の引き下げを要求することに成功しています。テスラを除くすべての自動車メーカーが、これらの業界団体に少なくとも二つ以上所属しており、大半の自動車メーカーが世界全体で少なくとも五つの業界団体に所属しています。

  • InfluenceMapが2024年2月に業界標準分析を独自に分析した結果、IEA(国際エネルギー機関)が更新した1.5℃シナリオを満たす電気自動車(BEV、燃料電池自動車(FCEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV))の販売台数66%を達成するために十分なEV車生産台数を2030年までに確保できるのは、テスラ、メルセデス・ベンツ・グループ、BMWグループの3社のみと予測されていました2。本報告書の作成にあたる現在の業界予測分析によると、2030年に世界中で生産されるEV車はわずか53%と示されています。運輸セクターは世界的に見ても三番目に大きな温室効果ガス排出源であり、道路交通は多くの他の産業に比べても脱炭素化が遅れています。
  • また、日本の自動車メーカーは、EV車への転換に対する備えが最も遅れており、EV車普及に反対するような関与を最も厳しく行っています。気候変動政策関与が最も低かった自動車メーカー3社はすべて日本企業(スズキ、トヨタとマツダ)であり、ハイブリッド車を含む内燃機関を動力源とする自動車のより長期的な役割を支持する政策を世界的に推進しています。同様に、2030年における電気自動車生産台数の予測割合が最も低い4社も、すべて日本の自動車メーカーでした(スズキ:10%、ホンダ:24%、トヨタ:29%、マツダ:30%)。
  • さらに、大型の乗用車生産が急速に増加し、世界的な気候変動目標を脅かし続けていることも明らかになっています。自動車メーカーは、SUVと軽量トラックの生産台数を世界的に増やすと予測されている(2020年時点の世界軽量自動車販売台数の57%から、2030年には64%へ)傍ら、大型自動車の生産を促進する規制をも推進しています。SUVの比較的高い石油消費量は2022年の全世界の石油需要増加の3分の1を占めており、このようなSUVや軽量トラックの生産を加速させる戦略は気候変動問題の深刻化を象徴しています。

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